デザイナー林柳江が東京新聞で連載中のコラム 「インテリアわたし流」 をご紹介しています。
艶深い木目安らぎの場
いつもと変わらぬ朝の通勤電車だけれど、新学期が始まるこの四月は晴れた青空の下、ふんわりと桜の花が街の家並みに色を添えて明るい。
曇っていると望めない富士山もそこだけ縮尺を間違えたように大きく見える。
還暦を迎えた翌日の私はまっさらな気分で、いつもの富士山も特別に見えた。中学校に入学した時の気分に似ている。学年と組と名前を書き込んだ新しい教科書とノート。削り上げた鉛筆が行儀よく並ぶ筆箱。制服のスカートのプリーツがきちんと折られて、新しい何かが始まる、そんな期待感が胸にひろがる感じ。

木目の美しさは年輪のたまもの。今こそ、ゆとりのある大人の机が欲しい
あのころ、新しい机と自分だけの部屋がほしかった。今の私も自分の机がほしいと思う。大きくて、ランプが置かれていて、写真で見かけた仏文家の朝吹登水子さんのパリの書斎にあったような年輪を重ねた机がいいな。
木目が美しく深い艶をたたえた年代もののローズウッドで手触りが良く、読みかけの本を幾冊か置いても余裕のある広さで、家族の写真を入れた銀の写真立てがあり、還暦祝いの万年筆でさらさらと手紙を書いたりなぞして、アンティークの薄手のティーカップでゆっくりとお茶をいただく。仕事の机にはお別れして、丁寧な心持ちでものを想う。嗚呼、これぞオトナの暮らし、やっぱり机がほしくなる。
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東京新聞 生活面 4月21日 デザイナー 林柳江




