デザイナー林柳江が東京新聞で連載中のコラム 「インテリアわたし流」 をご紹介しています。
住み継ぎたい本物の「和」
梅が笑んだらお訪ねくださいますように、と手紙を下さったのはもう七十を過ぎたご年配の奥様。娘時代のお雛様を倉に仕舞い切りなのも可哀相だから、とご実家からはるばる運ばれて、久方ぶりに飾られた雛の節句にお招きいただいたのはもう五六年も前のこと。

桃や紅白の置物をあしらい、かわいらしく飾られたお雛さま
イタリアンタイルの床に、漆喰の壁で仕上げた瀟洒な別荘風のお住まいのリビングに飾られた二組の時代もののお雛様は、それは雅で華やいでいて、愛らしい桃と梅の枝が香りを添えていた。
ちょっと古いデータだが、平成八年の居住性調査によると、半数以下の家庭でしか、雛の節句が行われていない、とある。飾るよりも片付けるほうに手間と時間がかかってしまい、面倒さが先に立つというも一因かもしれないが、調査で気になるのは新築をきっかけに「年中行事を行わなくなった」という回答が、「行うようになった」を上回っていることだ。
十数年前の調査だが、住宅の更新や世代の交代によって、日本の伝統的な年中行事が廃れつつあるとしたら、私たち還暦世代のライフスタイルの関わりも大きいと思う。
いま「和」をテーマにしたイベントや、インテリアショップに人気が集まり、年中行事も話題になるが、欧米文化に憧れた私たち世代だからこそ、安直なわかりやすさや手軽さだけでなく、日本人の本物の暮らしを住み継ぐ志を持ち続けたいと思う。
東京新聞 生活面 3月3日 デザイナー 林柳江




